バハマのSTO担当官、バハマ政府公認のSTOプロジェクトの代表を含むSTO分野で活躍する5名の方が登壇。バハマ政府の最新の取り組み、バハマ政府公認プロジェクト「PO8」に関する解説、また日本の国会議員も参加し、今後の国内のSTO規制に関する議論が行われた。
2019年に入りさらに盛り上がりを見せているのがSTO(セキュリティトークンオファリング)だ。従来の証券をトークン化することで、各国の金融証券取引法に基づいた運用が可能となる。
各国政府が規制や法律を整備していく中で、南米のバハマが世界に先駆けてSTOに関する取り組みを行った。バハマ証券取引委員会が、4月にバハマ国内におけるデジタル資産の発行や販売に関する法律の枠組みを作成しており、法案が通過すれば画期的な取り組みとなる。
2019年5月7日銀座のBINARYSTARで行われた「【バハマ政府STO担当官来日!メディア独占イベント】バハマ政府のSTOの枠組みと、ブロックチェーン実用化事例のご紹介」では、バハマのSTO担当官、バハマ政府公認のSTOプロジェクトの代表、そして各国でSTOに関して取り組むプロジェクトの代表、現職国会議員の合計5名の方による講演が行われた。
・ご挨拶:IBL台湾CEO/Infinity Blockchain Group共同創業者 山本純矢氏
・世界のSTOの現状:QRC HK CEO 石田祥吾氏
・バハマのSTOとビジネス環境の紹介:バハマ政府STO担当官ドン・コーニッシュ氏
・ご挨拶:参議院議員 藤末健三氏
・STO事例紹介:初の政府公認プロジェクトPO8:CEO マシュー・アーネット氏
・パネルディスカッション
最初にIBL台湾CEO/Infinity Blockchain Group共同創業者 山本純矢氏から開会のあいさつが行われた。山本氏はSTOの各国の状況について<それぞれの国が最適なプラクティスを探している>とした上で、バハマがどのような取り組みを行なったのか、<世界の最新情報をぜひキャッチアップしてほしい>と述べた。
QRC HK CEO 石田祥吾氏からは世界のSTOの現状について説明が行われた。STOはICOの問題点を解決する文脈で語られることが多いが、むしろIPOをより簡単にする文脈で語るほうがいい、と石田氏は語る。
・ICOから派生したと言うよりも、IPOから考えた方がいいと考えている。つまりIPOの時間とお金をかける手法をより簡便にするのがSTOの背景である。
・これまでトークン化できなかったものに投資できるようになっていくのがSTOの最も大きなメリット。PolymathやHarborがトークン化を行い、取引所が流通させる流れができつつある。
・アジアでSTO規制を見てみるとシンガポールが先行している。4月に香港も声明をだしており、段々と規制が整備されつつある。
・ナスダックによると2019年にSTOが盛り上がるとされており、3億4000万ドルが2018年半ばから調達された。
・いくつかの有名な証券取引所がすでにセキュリティトークンの取引を開始している。
・STOはICOと比較すると全体的に実施数が少ないが、今後もっと増えていくと考えられる。
・アラブ首長国連邦はICO,STOともにグレーだが、どんどん実施していこうという動きがある。InWara社の2019年Q1レポートによると、STOによる資金調達の総額のうちおよそ50%がアラブ首長国連邦で調達されている。
続いて参議院議員 藤末健三氏がゲストとして登壇した。
STOは金融商品取引法の対象に含まれており、今年3月の金融商品取引法(金商法)の改正案について言及した。この改正案は大きな骨組みであり、今後半年ほどの時間をかけて議論を深めていくそうだ。資金が国を超えてお金が動く、国境をこえたp2pで資金の再分配を行うにあたって、<今回の改正は非常に大きな一歩だと思っている>と述べた。
また藤末氏は<他国に先駆けて規制を作り、世界中からプレイヤーを集めていきたいと考えている>と述べた上で、<証券会社がなくてもいい世界を作りたい>と意欲を示した。
バハマ政府STO担当官ドン・コーニッシュ氏はバハマ政府の取り組みについて説明が行われた。バハマは金融国家として100年以上の歴史があり、STOが盛り上がる以前からSTO法制の準備をしてきたという。
・金融業会はバハマにとって非常に重要な分野である。金融業界のなかでデジタル資産にもっとも早く動いている国だと自負している。
・正しいステップを踏んでいく必要性を感じており、まともな規制を行っていくのが大事だと思っている。
・テック分野に興味がある理由としては、バハマが金融サービスに100年前から関わっているという歴史があることが挙げられる。100年の歴史をもってして、安定した金融サービスを行う環境が整っており、タックスヘイブンではなく、タックスニュートラルであることを目指す。
・法人税、消費税などあらゆる税金がないために多くの企業や個人に活用されている。
・STOの流れがくる以前から、バハマは国全体としてSTO関連の規制に取り組んできた。
・ビジネスに応用するには取引所の規制が重要になっていくと確信している。
・デジタルトークン、電子通貨、アセットトークン、ユーティリティトークンといった言葉の詳細な定義をおこなった。定義を行うことで投資家が参入しやすくなるため、とても重要である。
・スポンサーとはバハマ政府から認可をうけ、登録の権限を得た個人または団体のことである。
・資金調達したい企業はスポンサーに依頼しなければならない。スポンサーはトークン発行団体のKYCを行なったり、書類、手続きを全ての手続きを行う。
・バハマでビジネスを行う場合、弁護士を雇うなど様々な人的、時間的、費用的コストが削減可能であり、スポンサーと連絡するだけでビジネスを始められるという強みがある。
・申請後に最長45日で手続きが完了するため、他国に比べて早くビジネスを進めることができる。
・シンプルでありながらだれでも審査を通るわけではなく、厳しい国際的なルールに従っている。
バハマ政府初の公認STOプロジェクトであるPO8にCEO マシュー・アーネット氏から、PO8がどのようなプロジェクトかの説明がおこなわれた。
・PO8とは海底に眠る沈没船から引き上げられる考古学的価値のある物をトークン化する「海洋考古学」と「ブロックチェーン」のプロジェクトである。有名なタイタニック号を発見した海洋考古学や海洋調査のスペシャリストが参加している。
・PO8は政府とローカルのステークホルダーが協力した一例である。クリエイターと政府が正しいフレームワークの中で規制のあり方を模索することが重要であり、PO8は先駆けて政府と協力してSTOを実施した。
・STOの推進には個人と政府が協力していくことが不可欠だと考える。
・ノンファンジブルトークンという技術を活用。クリプトキティというゲームの中で活用されていた技術を実際の世界で使えるものにした。
・仮に海の中で失われた船を見つけたとする。沈没船の中にはいろいろなものが残っている。しかし、これらの物を個人コレクターに販売するのではなく、博物館に収めたい。博物館に収めることで、子供、家族、考古学者、みんなが触れることができる。
・ノンファンジブルトークンを使用して、博物館に現物をおいておきながら、トークンとして所有権を分配できる。見つかったものが博物館に運ばれると、博物館はカストディアン(管理者)としての役割だけを果たすことになる。
・セキュリティ(有価証券)が発行され、これに対して投資を行う。これに対して代替不可能なトークンが発行され、利益が発生すると配分がスマートコントラクトで自動で配られる。この仕組みが非常に便利で、セキュリティトークンはあらゆる業界で活用できる。
・将来はどうなるかということを常に考えること。そして意識して代替不可能資産がトークンされる事実に目を向けることが大切である。
・今後は日本の企業とコラボレーションする予定
最後のパネルディスカッションでは今まで講演を行った四名が登壇し、日本のSTO法規制に関する議論を交わした。「日本政府へのアドバイスはありますか?」という質問に対して4名は以下のように回答した。
バハマ政府STO担当官ドン・コーニッシュ氏:
ステークホルダーとどのように手を組むかが大切だと思います。業界が非常にダイナミックなので、規制をし過ぎてしまうこと、そして、よくないプロジェクトがたくさんでてしまうことの2つは避けたい。それぞれの企業が素晴らしい活動をすることです。
PO8 CEO マシュー・アーネット氏:
政府、取引所、ブロックチェーンのプロジェクト、金融業界という4つのグループが一緒に国がよくなるために、何が大事か議論していくのが必要になります。
IBL台湾CEO/Infinity Blockchain Group共同創業者 山本純矢氏:
すべてのカテゴリーを規制しようと思ったら、取り残しがおおくなる。ブロックチェーンという技術がなにをできて、どの産業で応用できるのかを理解することが大事。規制をトップダウンにすると、きりがないのでボトムアップの方向性で規制を考えることも必要です。
QRC HK CEO 石田祥吾氏:
この業界はスピード感が重要です。法律を決めるのが重要だけど、他の国はどんどんSTOなどのプロジェクトを実施している。今の日本のスピード感でいいのかが不安ですし、成功事例、ユースケースがないと今後は厳しいと思います。
世界中でSTO(セキュリティトークンオファリング)が注目を集める中で、各国がどのような法規制をすればよいうのか最適解を探している状態だ。そのような状況の中で、各国に先駆けてSTOの法規制に取り組むバハマの事例は重要になってくるだろう。
イベント内で参議院議員 藤末健三氏が言及されたように、日本もSTO規制に関して動きを強めている。
今後のSTOがどのように普及、発展していくのか動向に注目したい。
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記事執筆
塚田愼一